黄昏時、館内の通路や各客室、大浴場に至るまで、スタッフの手によってひとつひとつ油ランプに火が灯されていく。一瞬にして館内はあたたかな橙色の光に包まれ、まるでタイムスリップしたかのような幻想的な空間へと変貌を遂げる。照明装置や電子機器のノイズが一切存在しない世界では、光と影のグラデーションが驚くほど美しい。
デジタル機器から完全に遮断された静寂のなかで、窓の外に目をやると、南八甲田の深い森と星空が広がっている。スマートフォンの画面をスクロールする手を止め、ただ炎の揺らぎを眺める。それだけで胸の奥に溜まっていた疲労がすーっと溶け出していく感覚を味わえるはずだ。