山田真歩の演技が放つ知性とリアリズムの背景には、他の俳優とは一線を画す特異な生い立ちとキャリアの変遷が存在します。
東京都立竹早高等学校を経て進学したのは、皇族も学ぶ名門・学習院大学文芸学部(ドイツ文学専攻)でした。大学在学中に演劇サークルに所属し、自ら舞台に立つ面白さに目覚めたものの、卒業後はストレートに役者の道を選ぶことはありませんでした。一度は社会人として生きる道を選び、教育系・専門出版社に正社員として就職したのです。
出版社時代は編集者として企画立案、原稿整理、著者との折衝など多忙なデスクワークと現場回りをこなす日々を送っていました。当時の経験について彼女は後のインタビュー等で、社会の現実や働く人々の機微を肌身で知る貴重な時間であったと振り返っています。しかし、「本当に自分が人生をかけて全うしたい表現は何か」という問いが心の中で膨らみ続け、20代後半にして安定した出版社の正社員を辞職。演劇の世界へ戻る決断を下しました。
退職後、柄本明が主宰する劇団「東京乾電池」の研修生となり、演技の基礎を徹底的に叩き直します。転機となったのは2009年、内田伸輝監督の自主制作映画『人の善意を気味悪がる人に贈る映画』で主演を務めたことでした。極めて即興性の高い現場で、人間の醜悪さと脆さをむき出しにした演技が映画関係者の間で凄まじい衝撃を与えます。
この作品をきっかけに、安藤サクラや門脇麦など、日本屈指の演技派女優を擁する名門マネジメントオフィス「ユマニテ」への所属が決定。OLという社会人経験を経たからこそ身についた「客観的な視座」と「文章・テキストの深い読解力」が、彼女の役作りの根底に強固なバックボーンとして息づいています。