「母乳=超高タンパクで筋肉に効く」というイメージは、栄養学的に見ると明らかな誤解です。母乳と一般的な牛乳、成人が愛用するプロテインの栄養素を比較すると、その違いは一目瞭然です。
母乳の成分の約87〜88%は水分で、残りの固形分のうちタンパク質はわずか1.0〜1.2g/100ml程度しか含まれていません。これは牛乳(約3.3g/100ml)の約3分の1に過ぎず、市販のプロテイン飲料(1本あたり15〜20g以上)と比べれば微々たる量です。母乳は脳の発達を支える乳糖(炭水化物)や脂質が多く、急速な筋肥大を求める成人男性にとっては「低タンパク・高脂質・高糖質」な飲料に過ぎません。
「母乳の抗体で大人の免疫力が上がる」という言説にも大きな落とし穴があります。新生児の胃は酸度が低く、腸管粘膜も未熟なため、母乳中の免疫グロブリン(分泌型IgAなど)をそのまま体内に取り込むことができます。しかし、消化器官が完成している大人が母乳を飲んでも、分泌型IgAなどの抗体はpH1〜2という強力な胃酸と消化酵素(ペプシン)によってペプチドやアミノ酸へと分解されてしまいます。つまり、成人が経口摂取しても、免疫グロブリンとしての機能は胃を通過する段階で失われてしまうのが現実です。