『吾亦紅』が人々の涙腺を崩壊させる最大の理由は、美化された親子愛ではなく、「親不孝を重ねた愚息が、母の死後に初めて直面する生々しい後悔」を描いている点にあります。
杉本眞人氏がかつて語った手記や各メディアのインタビューによると、杉本氏の実母・ミツさんは、東京・新宿で女手一つで杉本氏を育て上げました。一人息子である杉本氏を溺愛し、音楽の道という不安定な世界へ進む息子を陰ながら支え続けた母に対し、杉本氏は若気の至りや照れ隠しから、素直に感謝を伝えることができないまま歳月を重ねてしまいました。
決定的な転機となったのは、母・ミツさんの他界でした。臨終の場や葬儀の最中、杉本氏は悲しみよりも呆然とした感情が勝ち、涙を流すことすらできなかったといいます。しかし、四十九日を過ぎ、ふとした日常の瞬間に「もうこの世に母はいないのだ」という圧倒的な現実が押し寄せ、遅れてやってきた激しい慟哭と悔恨に苛まれることになりました。
その胸の内を打ち明けられたのが、数々のヒット曲を共に生み出してきた作詞家・ちあき哲也氏でした。ちあき氏は、杉本氏が漏らした「母親の墓前でタバコを吸い、愚痴をこぼした」という赤裸々なエピソードをすくい上げ、単なる追悼歌ではなく、人間の弱さと業をさらけ出した唯一無二の叙情詩へと昇華させたのです。