しじみの下処理において、最も多くの人が誤解しているのが砂抜きの環境設定である。しじみは淡水と海水が混ざり合う汽水域(宍道湖や十三湖など)に生息しているため、真水につけても強いストレスを感じて殻を固く閉ざしてしまい、砂を効率的に吐き出さない。
しじみの砂抜きにおける塩分濃度と時間の黄金律は、水1リットルに対して塩10g(塩分濃度1%)、時間は室温で3時間から4時間(夏場は冷蔵庫の野菜室で5時間程度)が理想的である。海水濃度(約3.5%)を必要とするアサリとは異なる点に細心の注意を払いたい。
砂抜きの成否を分けるプロのコツは以下の4点に集約される。
1. 平底のバットに重ならないよう平らに並べる:
ボウルにしじみを積み重ねると、上の貝が吐き出した砂を下の貝が吸い込んでしまう。平らなバットにザルを重ね、吐いた砂が下に落ちる構造を作るのが必須条件となる。
2. 水位は貝の頭がわずかに水面から出る「ひたひた」にする:
完全に水没させると酸素不足に陥り、呼吸活動が鈍る。貝が呼吸しやすいよう、水深を調整することが砂吐きのスピードを加速させる。
3. 新聞紙などをかぶせて暗所を作る:
しじみは夜行性のため、薄暗い環境を作ることで活発に活動し、砂とともに体内の老廃物を吐き出す。
4. 砂抜き後の「空気呼吸(陰干し)」で旨味を増幅:
砂抜き完了後、ザルにあげて濡れ布巾をかけ、常温で2〜3時間放置する。水から揚げられたしじみは低酸素状態の危機感を覚え、自らのグリコーゲンを分解してコハク酸やアラニンといった旨味アミノ酸を自発的に生成する。
また、調理時のしじみ汁の臭み取りには清酒が絶大な威力を発揮する。水にしじみを入れる段階で酒を大さじ1〜2加えることで、アルコールの共沸効果が働き、加熱時に貝特有の泥臭さやアミン系揮発成分を空気中へ一緒に蒸発させてくれる。