ネット上に氾濫する「ジェネリック危険論」には、いくつかの致命的な誤解と、逆に一般にはあまり知られていない業界構造の盲点が混在している。冷静な意思決定を下すためには、これらを峻別して把握しておく必要がある。
誤解1:「有効成分が同じなら、どのメーカーの後発品でも中身は全く一緒」という幻想
先述の通り、先発品と後発品の違いだけでなく、「後発品メーカー同士の製品の違い」も無視できない。現在、1つの先発品に対して10社以上の後発品メーカーが参入しているケースは珍しくない。A社のジェネリックとB社のジェネリックでは、使用している添加物も錠剤のサイズも崩壊時間も異なる。薬局の在庫都合で前回と異なるメーカーの後発品を調剤された場合、患者の体内動態が微妙に揺らぐリスクが生じる。後発品を利用する際は、「可能な限り同じ後発メーカーの製品を継続調剤してもらう」ことが安定した治療の大原則となる。
誤解2:「オーソライズド・ジェネリック(AG)なら先発品と100%同じだから安全」という盲信
医療従事者からも高く評価されているのが、オーソライズド・ジェネリック(AG)である。AGは先発医薬品メーカーから許諾を受け、有効成分だけでなく原薬、添加物、製造ライン、特許技術まで先発品と全く同一で作られた「実質的な先発品」である(一部、添加物のみが異なる準AGも存在)。「ジェネリックの添加物リスクが怖い」と考える患者にとって、AGは最も理にかなった選択肢となる。ただし、「すべての医薬品にAGが存在するわけではない」という盲点がある。AGが上市されているのは市場規模の大きいメジャーな薬剤に限られており、マイナーな薬剤や前述の狭小治療域薬では選択肢にないケースも多いため、主治医や薬剤師への確認が欠かせない。
誤解3:「医師が変更不可にするのは利権のため」という言説の虚構
ネット上で「医師が先発品にこだわるのは製薬会社からリベート(裏金)をもらっているからだ」という陰謀論が散見されるが、現代の日本の保険診療および公取委基準において、処方薬の銘柄指定で直接的な金銭バックを得る構造は存在しない。医師が処方箋の「変更不可」欄に署名をする正当な理由は、純粋に「病態が極めて不安定で、わずかな血中濃度の乱れも許されない(重症心疾患、てんかん、臓器移植後など)」、あるいは「過去に添加物アレルギーの既往がある」という医療上の必要性に基づいている。患者側から「漫然とした不安」だけで変更不可を強要することは、医師との信頼関係を損ねる要因にもなりかねない。