インターネット上で長年囁かれ続けている「ピーター・パンは成長した子供を殺害している」「ネバーランドは死後の世界」という都市伝説。センセーショナルな噂話として片付けられがちですが、原典のテクストを読み解くと、完全なデマとは言い切れない背筋の凍る記述が実際に存在します。
原作小説第5章には、ネバーランドのルールについて以下のような決定的一節が記されています。
「男の子たちが大きくなると、それは規則違反になる。だからピーターは、彼らをできるだけ早く間引いていく(thin them out)。男の子たちが増えすぎたときも同様だ」
英語原典における「thin them out」という表現は、森の木々を間伐する際などに用いられる動詞ですが、文脈上「成長して掟を破った子供を排除(殺害)している」と解釈できる余地を多分に残しています。さらに原作のピーターは、海賊たちとの戦いにおいて敵を殺害することに一切の躊躇がなく、呼吸の回数を変えるだけで周囲の人間を窒息させられると信じているなど、サイコパス的な万能感に支配された存在として描かれています。
この異様な世界観の背景には、ネバーランドとピーター・パンの正体に関する作者J.M.バリーの生々しい実体験とトラウマが影を落としています。バリーの兄デイヴィッドは、14歳の誕生日前日にスケート事故で他界しました。母親は絶望のあまり寝込み、死んだ兄のことばかりを求め続けました。バリーは母の愛を取り戻すため、死んだ兄の服を着て兄の口調を真似て生活したという壮絶な記録が残されています。
母親の記憶の中で、事故死した兄は「永久に歳をとらない完璧な少年」として神格化されました。つまり、ネバーランドとは「死によってのみ達成される永遠の少年期」であり、ピーター・パンとは「現実を生きることが許されなかった死児の亡霊」そのものなのです。そう考えると、ロストボーイズが「乳母車から落ちて7日間名乗り出がなかった子供たち」で構成されている設定も、乳児死亡率の高かったヴィクトリア朝の「死んだ赤子たちの魂の掃き溜め」であることを示唆しています。
また、ティンカー・ベルがウェンディに抱いた激しい嫉妬の真相も、単なる恋敵への嫌がらせではありません。原作の設定において、妖精は体が小さすぎるため「一度に一つの感情しか持てない」とされています。嫉妬に支配されたティンカー・ベルは、ネバーランドに到着したウェンディを「怪鳥」と偽ってロストボーイズに弓矢で射殺させようと企てました(トートルズの放った矢が胸に命中するも、ピーターから貰ったどんぐりのボタンに当たって一命を取り留める)。無邪気さと残虐性が表裏一体となったこの世界において、ピーターを取り巻く感情は常に死と隣り合わせだったのです。