インターネット上で長年囁かれている「力士はハゲたら即引退させられる」という説ですが、日本相撲協会の規定に「薄毛による強制引退」という条文は一切存在しません。
過去にも頭頂部が大きく後退しながら現役を長く続けた名力士は多数存在します。しかし、なぜこのような噂が広まったのかといえば、「髷が結えなくなれば土俵に上がれない」という実質的な土俵規程が存在するためです。大相撲の公式戦では、十両以上は大銀杏、幕下以下は丁髷を結って出場することが義務付けられており、物理的に髷が作れなくなった力士は実質的に現役続行が不可能となります。
そこで真価を発揮するのが、力士の薄毛に対する床山の卓越した結い方技術です。
- 側頭部・後頭部の髪を活用する:頭頂部が薄くなった場合、後頭部やサイドの長い髪を巧みに引き上げ、頭頂部を覆うようにコーミングして元結でまとめます。
- 鬢付け油の粘度調整:油の硬さを部位ごとに使い分け、毛束を平たく広げて頭皮の露出を目立たなくさせます。
- 元結の位置の微調整:髪の密集している部分を見極めて結び目の位置をミリ単位でずらし、土俵上で激しくぶつかっても解けない張力を確保します。
歴史的なエピソードとして知られるのが、1953年3月場所7日目の栃錦と若乃花による伝説の水入り大相撲です。取組中の激しい頭の押し合いによって栃錦の元結が切れ、ざんばら髪となって中剃り(髪の量を調整するために頭頂部を剃ること)をした頭頂部が露わになったハプニングがありました。このように、髷は単なる装飾ではなく、頭部を守るクッションの役割と力士のアイデンティティそのものを担っています。