手術は11時間にも及ぶ大手術となった。頭頸部外科のチームが舌のがん病変部と左右の首のリンパ節を切除し、続いて形成外科チームが本人の太ももから組織を採取。それを口腔内に移植して新たな舌を形作る「遊離皮弁再建手術」が執刀された。顕微鏡下で微細な血管を一つひとつ繋ぎ合わせる血管吻合(ふんごう)は、一ミリの狂いも許されない緻密な作業である。
術後、彼女を待ち受けていたのは「言葉を取り戻す」という未知の試練だった。新たに作られた舌には神経が通っていないため、最初は唾液を飲み込むことすら容易ではない。それでも彼女は、呼吸や発声を一から学び直すリハビリに挑んだ。主治医や言語聴覚士ら医療チームの懸命なサポートに応えるように、一歩ずつ確実に回復への階段を上っていったのだ。