オホーツク海に鋭く突き出た知床半島。手つかずの原生的な自然が広がるこの地では、急峻な山々から豊かな海岸線に至るまで、多様な命が緻密な生態系ネットワークを形成している。しかし、人間と野生生物が保ってきた絶妙なディスタンスが、過熱する人流とともに急速に崩れつつある。
海洋資源の動向やサケ・マス類の遡上量の変動、気候変動に伴う木の実の実りの変化など、複合的な環境ストレスが生息域の流動化を引き起こした。そこに重なったのが、エコツーリズム・観光業の再拡大だ。訪れる旅行者が激増した結果、かつては人の気配を避けていた個体が、道路際やシーカヤックの発着場周辺に頻繁に立ち現れるという極めて危険な日常が生まれている。