「すさまじきもの(興ざめなもの)」「にくきもの(腹立たしいもの)」をはじめとする段落に見られるのは、妥協を許さないリアリストとしての横顔だ。深夜に長居する無神経な客、乳児の前で気取った声を出す男、下手な字で送られてくる恋文。千年前の宮廷で彼女が苛立ちを覚えた対象は、現代を生きる私たちの共感すら軽々と呼び起こす。
彼女は感情に嘘をつかない。良いものは手放しで絶賛し、ダサいものは容赦なく笑い飛ばす。その歯切れの良さは、当時の女性に求められていた「控えめで慎ましい美徳」の枠組みを完全に破壊していた。貴族社会の男たちと漢詩や和歌の知識で対等以上に渡り合い、時に一本取って見せるスリリングなやり取りは、彼女が並外れた知性とともに、人を惹きつけてやまない愛嬌を持ち合わせていた証拠である。