『アタラクシア』は、それぞれに満たされない渇きを抱えた男女6人の視点がリレー形式で切り替わる群像劇です。料理研究家として成功し、誰もが羨む生活を送る瑛理(えり)は、完璧主義で感情を抑圧する夫・桂(けい)との生活に息苦しさを感じていました。彼女はその心の隙間を埋めるように、年下のフリーター・秀己(ひでみ)との秘密の関係に溺れていきます。
しかし、秀己にもまた同棲中の恋人・由依(ゆい)が存在し、その由依も精神的な不安定さから別の男性・八雲(やくも)と関係を持つという、多重の不倫・浮気関係が連鎖していきます。表面的には整った日常の裏側で、それぞれが誰にも言えない秘密と執着を抱え、少しずつ均衡が崩れていく様子がスリリングかつ残酷な筆致で描かれます。
章ごとに語り手が変わることで、ある人物から見れば「理不尽な加害者」に見える相手も、その内面では耐え難い孤独や痛みを抱えていることが浮き彫りになります。金原ひとみ特有の研ぎ澄まされた心理描写が、読者を一気に物語の渦中へと引き込みます。