園内の中央奥、一般の来園者が近づくと否応なく目を奪われるのが、赤錆びた頑丈な鉄柵と有刺鉄線で囲まれた厳重警戒エリアです。そこには「立入禁止」「麻薬取締法に基づく栽培」といった警告板が掲げられ、無骨な二重フェンスが侵入者を阻んでいます。
東京都薬用植物園で栽培されているのは、あへん法によって規制されているソムニフェルム種(セティゲルム種を含む真正ケシ)や、麻薬及び向精神薬取締法で規制されるハカマオニゲシ、さらには外来種として国内への帰化が問題視されるアツミゲシなどです。一歩間違えればアヘンやモルヒネの原料となるこれら植物が栽培されている理由は、東京都健康安全研究センターの試験研究機関として「鑑別指導・不正取締りの最前線」を支えている点にあります。
設立は戦後間もない1946年(昭和21年)。当時のGHQ指導のもと、国内での麻薬乱用防止と適正な医薬品原料の管理を目的に創設されました。2003年度(平成15年度)からは東京都健康安全研究センターの直轄機関となり、その役割は従来の麻薬対策にとどまらず、市場に流通する違法な危険ドラッグ、不正な健康食品や無承認無許可医薬品の成分鑑別・分析技術の開発へと拡大しています。
警察官や麻薬取締官、税関職員などの鑑識能力を維持・向上させるためには、「本物のケシと合法なヒナゲシ(ポピー)の微細な形態的差異」を生きた状態で比較・学習できる環境が欠かせません。二重柵の外側には観賞用の合法植物(ヒナゲシやオニゲシ)が植えられ、内側には規制対象のケシが並びます。葉の基部が茎を抱き込んでいるか、全体に白っぽい粉を帯びているか、毛の生え方はどうか――現場の取締官や研究者がその違いを瞬時に見極めるための生きた見本園として、極めて高い公益的責務を背負っているのです。