この異色の物語を生み出した作者ベアトリクス・ポターは、単なる空想家ではなかった。彼女は優れたナチュラリスト(自然観察家)であり、菌類の研究や動物の解剖学的な観察にも深い見識を持っていた人物である。ポターが生涯を通じて見つめ続けたのは、甘美なメルヘンではなく、捕食者と被食者が織りなす容赦のない自然界の掟だった。
伝統的な児童文学が甘い道徳や教訓を垂れ流しがちだった時代において、彼女は生と死の厳然たる事実を誤魔化さずに描くことを選んだ。ピーターがマグレガーさんの目を盗んで野菜を貪り食う快感と、一歩間違えればお父さんと同じく料理の具材にされてしまう破滅の恐怖。この極限の対比こそが、100年以上を経た今なお、世界中の読者の心を惹きつけて止まない理由なのだ。