本作のクオリティを底上げしている最大の要因は、間違いなく監督・是枝裕和の存在だ。国際映画祭で数々の栄誉に輝いてきた巨匠が、今回はあえて小さな喫茶店という限定された空間を舞台に選んだ。カメラが捉えるのは、なんてことのない日常の機微。その静かな描写の中に、普遍的な人間の愛おしさが凝縮されている。
日本映画の伝統的な情緒を継承しつつ、世界中の誰もが共感できるライフスタイルドラマへと昇華させた手腕は見事というほかない。派手なアクションも衝撃的なサスペンスもない。しかし、登場人物たちが交わす視線やカップを置く小さな音一つひとつが、観る者の心に深く染み渡っていく。これぞ現代における日常系ドラマの到達点だ。