8月15日の満月の夜、月の使者が迎えに現れると、帝が派遣した2,000人もの警護兵も天人の神力の前には弓を引くことすらできず無力化されます。感情を奪われ月の住人に戻るための「天の羽衣」を着せられる直前、かぐや姫は最後の人間らしい心と思考を振り絞り、帝へ宛てた一通の手紙と和歌を認めました。
【かぐや姫が帝に遺した別れの和歌】
「今はとて 天の羽衣 着る折ぞ 君をあはれと 思ひ出でける」
(現代語訳:もうお別れの時となり、天の羽衣を着ようとするまさに今、あなたのことが切なく愛しく思い出されてなりません)
羽衣を羽織れば、地球で過ごした日々の記憶も愛着もすべて消滅してしまいます。その刹那に彼女の胸を占めていたのは、養父母への感謝とともに、帝への断ち切れない強い恋心でした。そして手紙とともに、月の使者が持参した壺入りの「不死の薬(死なぬ薬)」を帝へと託したのです。
かぐや姫の昇天後、手紙と薬を受け取った帝は深い絶望に沈みます。食事も喉を通らず、管弦の遊びも一切やめ、悲哀に満ちた返歌を詠み上げました。
【帝が詠んだ絶唱の和歌】
「逢ふことも 涙に浮かぶ 我が身には 死なぬ薬も 何にかはせむ」
(現代語訳:もう二度とあなたに逢うこともできず、流す涙に浮き沈みしているこの我が身にとって、永遠の命を得る不死の薬など一体何になりましょうか。何の役にも立ちません)