二人の出会いは1980年代後半に遡る。当時、梅沢富美男は「下町の玉三郎」として熱狂的な支持を集め、大衆演劇界のトップランナーとして日本中を熱狂させていた。一方の池田明子氏は、病院で日夜データと向き合う現役の臨床検査技師。芸能界の派手なネオンとは無縁の、極めて論理的で静謐な世界に生きていた女性だ。
8歳年下の彼女に一目惚れした梅沢が猛アタックを仕掛けたものの、池田氏は当初、彼がどれほどのスーパースターであるかすら意に介さなかったという。感情と虚構が交錯する舞台の世界で生きる役者と、冷徹な数値と科学的根拠を重んじる医療従事者。水と油のようにも思える二人の出会いだったが、この徹底した「理性の存在」こそが、後に暴走しがちな大スターを繋ぎ止める絶対的な錨となった。
結婚後、彼女は梅沢富美男劇団の裏方として奔走しながらも、自らの知的好奇心と向上心を決して捨てなかった。夫の威光に頼ることなく、自らの足で立つ道を模索し始めたのである。