紀の善の看板であった抹茶ババロアは、単なるスイーツの枠組みを超え、神楽坂の街歩き文化やポップカルチャーとも深く結びついていました。濃厚でほろ苦い抹茶のベースに、砂糖を極力控えたフレッシュな無糖生クリームと、甘く艶やかな粒あんを添えて食べる独自のスタイルは、同店が発祥とされています。
その影響力はカルチャーシーンにも波及し、アイドルグループ・乃木坂46の楽曲『他の星から』(2013年)の歌詞に「紀の善で あんみつ食べられれば」というフレーズが登場したことで、若い世代にとっても神楽坂を訪れる際の憧れの聖地となりました。文学者から歌舞伎関係者、修学旅行生まで、世代を問わず愛された客席には、常に温かい日常の贅沢が流れていました。
閉店発表直後のネット上の反応では、X(旧Twitter)で「紀の善」が終日トレンド入りし、「青春の味が失われた」「最後に一度だけでも食べたかった」という投稿が数十万件規模で拡散。店舗前には名残を惜しむファンが静かに集まり、シャッターの前で手を合わせる姿が見られるなど、極めて愛された存在であったことが改めて証明されました。