『君は放課後インソムニア』の物語を読み解くうえで、最大の焦点となったのがヒロイン・曲伊咲(まがり・いさき)が抱える身体的リスクと、中見丸太(なかみ・がんた)との関係の結末です。最終盤にかけて描かれた展開は、多くの読者が危惧していた悲劇のクリシェを鮮やかに覆すものでした。
伊咲が不眠症に陥っていた根本的な理由は、幼少期に受けた先天性心疾患の手術にありました。「眠っている間に心臓が止まってしまうかもしれない」という根源的な恐怖と、過保護なまでに自分を心配する家族への気遣いが、彼女の夜を奪っていたのです。胸に残る手術痕は彼女の引け目であり、誰にも踏み込ませない秘密の領域でした。
一方の丸太もまた、母の突然の失踪によるトラウマから「夜の静寂」に恐怖を抱き、不眠に苦しんでいました。二人は使われていない高校の天文台を「居場所」として共有し、互いの不眠を補い合うようにして心を通わせていきます。物語終盤、高校生活の終わりが近づくにつれ、進路の選択と同時に「二人の時間の有限性」が浮き彫りになります。
注目の最終回(第125話)では、丸太が写真の道を志して東京の大学へ進学し、伊咲は地元に残ってリハビリテーション系の医療を学ぶ道を選択します。遠距離という物理的な距離を挟みながらも、二人の絆は途切れることなく続いていました。作中ラストで描かれたのは、かつて夜の暗闇に怯えていた二人が、光あふれる日常の中でそれぞれの足で立ち、笑い合う姿です。伊咲の病気が突如完治するような安易な奇跡ではなく、「病のリスクを抱えながらも、人生を慈しみ前を向いて生き続ける」という、極めて誠実で温かな着地を見せました。