健康食材の代表格であるわかめが危険視される背景には、甲状腺という臓器の精密な生理メカニズムが存在します。喉仏のすぐ下にある甲状腺は、血液中のヨウ素(ヨード)を取り込み、新陳代謝や成長を促す「甲状腺ホルモン」を分泌しています。ヨウ素は人体に必須の微量ミネラルですが、摂取量が少なすぎても多すぎても甲状腺ホルモンバランスが崩れてしまいます。
わかめをはじめとする海藻類を短期間に極端な量摂取したり、日常的に許容量を遥かに超えて食べ続けたりすると、体内は急激なヨウ素過多に陥ります。このとき甲状腺は自己防衛反応として、一時的に甲状腺ホルモンの産生をストップさせます。この生理現象は医学的に「ウォルフ・チャイコフ効果(Wolff-Chaikoff effect)」と呼ばれており、これが過剰摂取によって甲状腺機能低下症が引き起こされる根本的な機序です。
通常、健康な甲状腺であれば数日から数週間でこの抑制から抜け出し(エスケープ現象)、ホルモン分泌は平常に戻ります。しかし、もともと甲状腺に潜在的な炎症を抱えている人や、長期間にわたって過剰摂取を継続した人の場合、ブレーキがかかったまま正常化せず、甲状腺機能の低下が固定化することがあります。その結果、甲状腺組織がホルモンを作ろうと無理に肥大化し、外見からも分かる甲状腺の腫れと違和感(甲状腺腫)を生じさせる事態に直面します。