なぜ莫大な事業費を投じてまで、この単一の踏切を廃止しなければならないのか。その理由は、山手線という路線の過密ダイヤと、都市防災上の深刻なボトルネックにあります。
第一の理由は、国交省が指定する基準を大きく上回る「開かずの踏切」の実態です。第二中里踏切を通過するのは、緑の帯を巻いた山手線のE235系電車だけではありません。並行する山手貨物線を走行する湘南新宿ライン、埼京線、相鉄線直通列車、さらには特急列車や貨物列車が同一エリアを駆け抜けます。平日朝のピーク時間帯(午前7時半〜8時半)における遮断時間は1時間あたり40分〜45分に達し、遮断機が上がっている時間はわずか十数分に過ぎません。
第二の理由は、緊急車両の通行路確保という都市防災の観点です。北区中里地区は木造密集住宅が連なる地域を抱えており、万が一の震災や火災の際、救急車や消防車が踏切の前で足止めを食らう事態は住民の生命に直結します。地元自治会からも十数年にわたり早期立体交差化の強い要望書が提出され続けてきました。
第三に、運行ダイヤの超高密度化に伴う踏切事故リスクの完全排除です。首都圏の主要幹線において、一度踏切事故や非常停止ボタンの作動が発生すれば、数十万人の通勤・通学客に影響が波及します。ホームドアの全駅導入などハード面の安全対策を急ぐJR東日本にとって、環状線唯一のウィークポイントを解消することは長年の悲願でした。