臨床の場において最も混同されやすい概念が「詐病(Malingering)」です。両者は「嘘の病状を訴える」という外見上の行動こそ酷似していますが、精神医学における位置づけと目的は正反対です。詐病は、保険金の不正受給、兵役や服役の逃避、休職手当の獲得といった明確な外的・金銭的利得を目的とする意図的な欺瞞であり、精神疾患の診断基準には含まれません。
これに対し、ミュンヒハウゼン症候群を包含する虚偽性障害の目的は「患者として扱われること」そのものであり、外的報酬は一切存在しません。むしろ高額な医療費を自腹で支払い、命に関わる不必要な開腹手術やカテーテル検査を自ら熱望するという、経済合理性から完全に逆行した行動パターンを示します。それぞれの疾患と状態の違いを整理したのが下表です。
この表が示す通り、動機の性質を厳密に見極めることが誤診を防ぐ第一歩です。詐病者は目的を達成すれば病院から姿を消しますが、虚偽性障害の当事者は退院を迫られると新たな病状を捏造し、永続的に医療システムへ寄生しようとします。