視点を愛好家の温室から地球規模の防衛戦略へと移してみよう。種子の収集と保存は、本来、人類の存亡を賭けた壮絶な戦いの歴史そのものだ。20世紀初頭、ソビエトの植物学者ニコライ・ヴァヴィロフは、飢餓を克服するために世界中から数十万点もの種子を集め、世界初のジーンバンク(遺伝資源銀行)の礎を築いた。第二次世界大戦のレニングラード包囲戦において、飢餓に苦しむ研究員たちが保管された種子を食べることなく自ら餓死を選び、未来のために守り抜いた逸話はあまりにも名高い。
その崇高な意志は現代、ノルウェー領の永久凍土に穿たれたスヴァールバル世界種子貯蔵庫へと受け継がれている。通称「不滅の種子シェルター」と呼ばれるこの施設には、気候変動や戦争、未知のパンデミックによる種族絶滅を防ぐため、世界各地から100万点を超える種子サンプルが眠る。種子をストックするという行為の根底には、生命のバックアップを未来へと託す人類共通の祈りが宿っている。