社会全体が深い喪失感と自粛ムードに覆われるなか、文化芸術の担い手たちもまた自らの表現の意義を激しく問われていた。スタジオジブリでは計画停電の薄暗いスタジオの中で作業が続けられ、宮崎駿が企画・脚本を手がけた映画『コクリコ坂から』が劇場公開へと漕ぎ着けた。高度経済成長期の横浜を舞台に、過去の痛みを抱えながら前を向く若者たちを描いた同作は、打ちひしがれた観客の心に静かなノスタルジーと再生への意志を呼び起こした。
一方、九州新幹線の全線開業という祝祭の影に隠れた日常を描き出したのが、是枝裕和監督の『奇跡』だった。家族の絆の再生を信じる子どもたちの純真な眼差しは、分断と混乱が日常化した列島において、ささやかな日常の尊さを再確認させる契機となった。
未曾有の災禍にあって、映画やアニメーションは単なる逃避の手段にとどまらなかった。現実の過酷さと向き合いながらも、人々の折れかけた精神を支え直す文化的防波堤としての役割を十全に果たしたのである。