インターネット上の質問サイトやSNSでたびたび議論を巻き起こすのが、「居酒屋のお通しのように、会席料理の先付も断ることができるのか」という問題です。
都内の日本料理店や京都の老舗旅館を取材した結果から導き出される結論は、「コース料理の先付は、その場でのキャンセルや減額は原則として不可能」という現場の厳然たる事実です。居酒屋のアラカルト注文であれば、着席直後に「お通しは不要です」と告げることで辞退できる店舗も一部存在しますが(法的な契約成立の観点から賛否両論あるものの)、あらかじめ料理の品数と価格がパッケージ化されたコース料理において、先付はコース全体の調和(味の濃淡や胃腸の準備運動)を計算して仕込まれています。そのため、席についてから「先付はいらないからその分安くしてほしい」と要求することは、劇場で「第1幕は見ないから入場料を割り引いてほしい」と求めるようなものであり、極めて非常識な振る舞いとなります。
ただし、「アレルギーがある」「宗教上の理由で口にできない」「極端な苦手食材である」という正当な事由がある場合は対応が全く異なります。現場の板前たちが口を揃えるのは、「予約段階で伝えてもらえれば、喜んで別の素材で先付を再構築する」という点です。一流の料理人にとって、客が最初の一品に箸をつけられず気まずい思いをすることは最も避けたい事態です。食材の変更は完全に可能ですが、それは「当日のわがまま」ではなく「事前相談」によってのみ成立する信頼関係であることを知っておく必要があります。