事件後、興行を主宰する松竹はコンプライアンスの徹底を声高に叫んだ。相談窓口の設置や、ハラスメント講習の実施など、一通りの対策は講じられたように見える。しかし、現場の役者やスタッフの本音は異なる。
「形だけのアンケートや講習で、何百年も続いた主従関係が変わるわけがない」。ある中堅歌舞伎関係者は匿名を条件にそう漏らす。配役の決定権や劇場の差配など、実質的な権力が一部の家系に集中している限り、本当の意味での風通しの良さは生まれない。制度を変えても、人々の意識に染み付いた「身分制度」の呪縛を解くのは容易ではないのだ。