万が一の被曝や漏洩が発生した場合、1分1秒を争う初動対応が生死を分けます。現場で配備が義務付けられているのが、フッ酸解毒剤グルコン酸カルシウムと、漏洩処理用のフッ化水素酸中和消石灰です。
被曝時の救命プロトコルは以下の手順で厳格に定められています。
1. 直ちに大量の流水で洗浄(最低15分以上)
汚染された保護具や衣服を即座に脱ぎ捨て、流水で患部を洗い流します。
2. グルコン酸カルシウム軟膏(2.5%製剤)の塗布・擦り込み
流水洗浄後、ただちにグルコン酸カルシウム軟膏を患部に擦り込みます。軟膏から供給されたカルシウムが、皮下に浸透しようとするフッ素イオンと身代わりになって結合し、不溶性のフッ化カルシウム(CaF₂)を形成することで、生体カルシウムの強奪を阻止します。痛みが完全に消失するまで継続塗布が必要です。重症例では医療機関においてグルコン酸カルシウムの動脈内投与や局所注射が実施されます。
3. 漏洩現場の中和処理(消石灰の散布)
床や設備にフッ酸が漏洩した場合は、水酸化カルシウム(消石灰)または炭酸カルシウムを散布します。水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)で中和すると水溶性のフッ化ナトリウムが生成され毒性が残留するため、不溶性の沈殿物を作る消石灰を用いるのが鉄則です。
作業環境においては、事前にフッ化水素酸SDS安全データシートを精読し、指定された保護手袋(ネオプレン、ブチルゴム等。天然ゴムや薄手ビニール手袋は浸透するため不可)および保護メガネ・防毒マスクの着用を徹底しなければなりません。