医療機関の門戸が閉ざされた空白を埋めるように急増したのが、X(旧Twitter)などを介した個人間取引です。「ボランティア」「無償提供」を掲げるドナーアカウントが乱立する一方、日本の精子提供に関する法整備は長年停滞を続けており、当事者間のトラブルを防ぐ公的なセーフティネットは機能していません。
SNS精子提供のトラブル事例として特に社会へ衝撃を与えたのが、学歴・職歴・国籍の詐称事件です。京都大学卒と偽っていたドナーが実際には別大学出身の既婚者であり、提供を受けた女性が精神的苦痛から生まれた子を児童相談所に一時保護委託せざるを得なくなった事例では、損害賠償請求訴訟へと発展しました。こうした経歴の偽装だけでなく、排卵日に合わせた直接の性交渉(いわゆるタイミング法)を強要する悪質な性被害も報告されています。
司法の現場でも深刻な問題が浮き彫りになっています。民法上、精子提供によって生まれた子と提供者との親子関係を明確に遮断する規定が不十分なため、後からドナー側に対して認知請求や養育費の支払い義務が発生するリスク、あるいは逆にドナー側が親権や面会交流を求めて家庭裁判所へ申し立てを行うリスクが存在します。契約書を交わしていたとしても、子どもの福祉に反する個人間合意は法的に無効とされる可能性が高く、当事者双方が将来にわたって大きな法的リスクを背負い続けることになります。