人間は未知の言葉に出会ったとき、手持ちの言語パーツから直感的に意味を組み立てる傾向がある。「気が置ける」という言葉を聴いたとき、「気が置ける=信頼を置ける、身を置ける」といったポジティブなイメージを連想する人が少なくない。そのため、否定形の「気の置けない」を聞くと「信頼が置けない=油断できない」と脳内で自動変換されてしまうのだ。
心理学的な認知バイアスもこの誤解を強力に後押しする。否定語「ない」が付くと「マイナスの意味」だと直感する脳の仕組みが、伝統的な慣用句のロジックを上書きしてしまう。「気の置ける関係」という誤った表現が「気心が知れた仲」という意味でまことしやかに使われる現象は、人間がいかに直感的な語感に支配されているかを象徴している。