リンゴは病害虫に極めて弱く、年間十数回もの農薬散布が不可欠とされる果樹です。その常識に反旗を翻したきっかけは、妻・美栄子さんの深刻な農薬アレルギーでした。農薬を散布するたびに寝込んでしまう妻の姿を見て、木村氏は「農薬を使わずにリンゴを育てることはできないか」と決意します。
1978年から始まった挑戦は、想像を絶する苦難の連続でした。農薬と化学肥料を断った園地は害虫の天国と化し、葉は落ち、花は咲かず、リンゴは1玉も実りません。収入は完全に途絶え、近隣農家からは「変人」「害虫をまき散らす迷惑者」と村八分に近い扱いを受けました。
極貧生活が約10年近く続き、追い詰められた木村氏は自ら命を絶とうと岩木山へ向かいます。しかし、そこで運命の出会いを果たします。山の中で鬱蒼と茂る1本のドングリの木でした。農薬も肥料も一切与えられていない山奥で、なぜこれほど青々と力強く育っているのか。木村氏が土を掘り返すと、そこには手で握るだけで温かみを感じる、ふかふかで豊かな土壌生態系が存在していました。「リンゴの木ばかり見て、足元の土を見ていなかった」という決定的な気付きが、奇跡の扉を開く原動力となったのです。