一之瀬帆波という人物を深く理解する上で外せないのが、1年生編9巻で白日の下に晒された「中学時代の万引き事件」という重い過去です。
母子家庭で育った一之瀬は、経済的に苦しい家庭環境の中で、妹の誕生日にどうしても欲しがっていた高価なヘアクリップを買い与えることができず、出来心で店舗から万引きしてしまいました。しかし、妹のために持ち帰ったそのプレゼントを見た母親は歓喜するどころか泣き崩れ、自首を促しました。この出来事は、一之瀬の心に「自分は取り返しのつかない罪を犯した悪人である」という消えない烙印を焼き付け、半年間もの不登校を引き起こす原因となったのです。
高度育成高校への入学は、過去を清算し「完璧な善人」として他者に尽くすための贖罪の旅でした。彼女がクラスメイトの誰一人をも見捨てず、私有ポイントをすべて共有するような極端な利他行動に走っていた背景には、この「罪悪感を埋め合わせるための過剰適応」が存在していました。坂柳有栖による全校生徒への過去暴露によってパニックに陥った際、絶望の淵から彼女を救い出したのが綾小路清隆であり、この救済体験が一之瀬にとって綾小路を「神格化された絶対の拠り所」へと変貌させる決定打となりました。