視野を世界に向けたとき、日本の車内における「完全な静寂」の要求は際立った異彩を放つ。欧米やアジア諸国の多くでは、鉄道やバスの車内で通話を行うことはごく日常的な光景だ。大声での議論やスピーカー通話はさすがに忌避されるものの、周囲をはばかるような通常の声量であれば、他人の通話を咎める者はほとんどいない。
ヨーロッパの一部の長距離列車では「サイレント・カー(静粛車両)」という特定の車両を設け、静かに過ごしたい乗客と通話や会話を楽しみたい乗客を物理的に分離する手法が採用されている。車両全体、ひいては列車全体を等しく無音に近い状態に保つことを求める日本の鉄道文化は、世界基準から見れば極めてユニークな「沈黙の空間運用」と言える。