「裏切り」や「移り気」という怖い意味の起源を探ると、フランス帝国時代のドロドロとした愛憎劇に突き当たる。主人公は、フランス皇帝ナポレオン・ボナパルトの最初の妻、皇后ジョゼフィーヌ・ド・ボアルネだ。
彼女はパリ郊外のマルメゾン城に造営した大庭園で、当時極めて珍少だったダリアを密かに栽培させていた。競うように新種を集め、自慢の庭園を訪れる貴族たちにその美しさを誇示する日々。しかし、ジョゼフィーヌは決してその球根を誰一人として分け与えようとはしなかった。美の独占——それこそが彼女の権力基盤であり、優越感の源泉だったのだ。
事件は、彼女の冷酷な独占欲に痺れを切らした一人の侍女によって引き起こされる。侍女はジョゼフィーヌの庭師を買い収め、球根を密かに盗み出させて自分の庭で見事に花を咲かせてしまった。自らの象徴であった秘密の花が他人の庭で咲き誇っている姿を目撃した皇后は激怒。庭師を解雇し、侍女を追放すると同時に、愛想を尽かしたようにダリアへの熱狂を急速に冷ましていく。この「独占欲の崩壊」「嫉妬」「愛の変節」という身勝手な結末が、「移り気」や「裏切り」という花言葉として歴史に深く刻み込まれることとなった。