ラストシーンの誕生背景には、原作者である高森朝雄(梶原一騎)氏と作画のちばてつや氏の間で繰り広げられた、熾烈な創作のドラマが存在します。ちば氏がメディアや回顧録で明かした証言によると、高森氏から届いた最終回の原案はまったく異なる展開でした。
高森氏の原案ラストでは、ホセ・メンドーサ戦を終えた後、白木葉子に付き添われながら丈が静かに余生を過ごすような、哀愁漂うエピローグが想定されていました。しかし、丈の過酷な生き様を誰よりも近くで描き続けてきたちばてつや氏は、「ジョーはそんな形でリングを降りられない。全てを出し切って真っ白になるまで戦うはずだ」と強く葛藤しました。
結果としてちば氏は原案を離れ、以前ジョーが作中で語っていた「ほんの瞬間にせよ、まぶしいほどにまっ赤に燃えあがるんだ…そしてあとにはまっ白な灰だけが残る…」という言葉を具現化するラストを描き上げました。ちば氏自身は「死んだのではなく、全身全霊を使い果たして真っ白な灰になった抜け殻のようになっているだけ」という意識でペンを走らせたと述べています。