新宿区戸山の閑静な文教・医療地区に建つ戸山庁舎ですが、建設当時から現在に至るまで、ある重大な歴史的出来事が語り継がれています。それが1989年7月の人骨発見問題です。
当時、旧国立予防衛生研究所(予研、現・国立感染症研究所)の建設工事現場から、100体以上におよぶ頭蓋骨や大腿骨などの人骨が掘り出されました。この地には戦前、旧陸軍軍医学校や防疫研究室が存在していたため、中国で生体実験を行ったとされる関東軍防疫給水部(731部隊)との関連が強く疑われ、国内外で大きな波紋を広げました。
出土した骨の一部には、ドリルによる穿孔痕やのこぎりによる切断痕など人為的な加工の跡が確認されています。厚生省(現・厚生労働省)が2001年に公表した調査報告書では、「戦地から標本として持ち帰られた戦死者等の遺骨である可能性が高い」としつつも、身元や具体的な出所の完全な特定には至りませんでした。
現在も市民団体による遺骨の身元確認や保管施設の建設を求める声が続いており、戸山庁舎の足元には、日本の医学・公衆衛生の近代化が抱える光と影が今なお横たわっています。