政治家・田中角栄の真骨頂である「人心掌握術」と「現場での機微」を知る上で、23年間にわたり秘書を務めた早坂茂三氏の手記群は欠かせない情報源です。代表作である『政治家 田中角栄』や『オヤジの背中』『駕籠に乗る人 担ぐ人』などでは、表舞台のニュース報道では決して映し出されない角栄の生々しい肉声と立ち振る舞いが記録されています。
早坂氏の手記から浮かび上がるのは、徹底した「目配り・気配り・金配り」の具体相です。角栄は他人の冠婚葬祭において、「祝い事は遅れても構わないが、葬式や見舞いには真っ先に駆けつけろ」と徹底していました。人が最も困っているとき、悲しんでいるときに差し伸べる手の重みを誰よりも理解していたのです。
また、官僚を操縦する際にも、机上の理論で論破するのではなく、徹底的に勉強して官僚以上の数字と法案知識を叩き込んだ上で、「責任は俺が取るから思う存分やれ」と背中を押す手法を取りました。この「情」と「理」を極限まで融合させた組織統率の現場証言は、現代のマネジメント層にとっても実践的な示唆に富んでいます。