声帯切除を検討する飼い主が最も軽視してはならないのが、身体への侵襲と術後トラブルです。臨床現場で報告される犬の声帯切除の後遺症には、以下のような重大な健康被害が含まれます。
特に危険視されるのが、切除部位の傷が治癒する過程で肉芽(にくげ)と呼ばれる過剰な組織が形成され、気道が極端に狭くなる「瘢痕性喉頭狭窄(はんこんせいこうとうきょうさく)」です。これにより、術後に深刻な呼吸困難を発症し、呼吸を確保するために喉頭部を再拡張する再手術や、気管切開を余儀なくされる事例が報告されています。また、声門の閉鎖機能が低下することで、飲食物が気管に入り込む誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)を引き起こす危険性も格段に跳ね上がります。
ネット上などでまことしやかに囁かれる「切除した声帯が再生する噂の真相」についても、獣医学的な裏付けがあります。トカゲの尻尾のように声帯が完全に元通り再生するわけではありません。しかし、切除部の線維組織が修復過程で盛り上がり、硬い瘢痕組織となって振動することで、数ヶ月から数年を経て再び大きな声が出るようになる現象は実際に確認されています。「高い費用を払って愛犬に痛い思いをさせたのに、結局また吠え声が戻ってしまった」と嘆く飼い主が後を絶たない背景には、この生体反応が存在します。