三國連太郎の役者人生を象徴するのが、常人の理解を遥かに超えた徹底的なリアリズム追求の姿勢です。その最たる例として語り継がれているのが、1957年公開の今井正監督作品『異母兄弟』における抜歯エピソードです。
当時34歳だった三國は、物語の後半で老人となった主人公の零落した姿をリアルに表現するため、健康な上顎の前歯を10本も抜歯して撮影に臨みました。義歯や特殊メイクで誤魔化すことを潔しとせず、「骨格や口元のたるみ、発声のリアルさは歯を抜かなければ出せない」という役者魂からの決断でした。
さらに、役柄になりきるために長期間風呂に入らず放浪生活を模倣したり、撮影現場で監督と激しく対立して自ら契約を破棄し映画会社を移籍するなど、その妥協なき姿勢は時に「奇行」「破天荒」とも評されました。しかし、それらすべては「芝居に嘘をつかない」という、表現者としての凄まじい執念の表れでした。