改名後の彼を一躍、時代の寵児へと再び押し上げたのが、合成音声ソフトウェア「Synthesizer V AI 重音テト」を起用した一連のボカロ楽曲でした。2026年8月に突如投下された「人マニア」は、投稿から瞬く間にTikTok、YouTube、ニコニコ動画のバイラルチャートを席巻。数多のMAD動画や二次創作動画を誘発し、年間を代表するネットアンセムとなりました。
リスナーの間で激しい議論を呼んだのが「人マニア」の歌詞の意味です。「最高じゃん」「ビババババ」といった記号的な脱力フレーズの裏側に、現代のSNS空間で繰り返される承認欲求の無限地獄や、人間の感情が消費可能なデータへと還元されていく空虚さを冷徹に笑い飛ばすシニシズムが潜んでいます。言葉の意味を極限まで解体しながら、言葉遊びとリズムの快楽だけを抽出して脳に直接流し込むようなリリック構造は、文脈を重視しがちだった従来のボーカロイドカルチャーに強烈なカウンターを食らわせました。
勢いは一過性のもので終わらず、2026年の「ボカコレ2026冬」でランキング1位を獲得した「イガク」によって決定的となりました。カットアップされた音声断片、不規則に暴れ回るブレイクビーツ、意図的に破綻させられたメロディ構成を通じて、医療や人体の不条理を思わせるモチーフを描き出したこの楽曲は、同業者や批評家からも「トラックメイクの解像度が異次元に達している」とボカロPとしての評価を一気に頂点へと押し上げました。初音ミクに偏重しがちだったシーンに対し、重音テトSVの持つ独特の乾いた人間味を最大限に引き出した功績は計り知れません。