現場で最も頻発するトラブルが「測定値のズレ」です。直前の測定と再測定で血圧が20mmHg以上変動したり、脈拍が跳ね上がったりする現象には、明確な生理学的・物理的根拠が存在します。
数値がブレる最大の原因は、測定順序と患者の精神的・身体的負荷にあります。看護技術の標準手順において、バイタルサイン5項目の順番は原則として「①体温 → ②呼吸 → ③脈拍 → ④血圧 → ⑤SpO2(あるいは体温計やSpO2センサーを装着した安静待機中に呼吸・脈拍を測定)」が推奨されます。
なぜこの順番が鉄則とされるのか。それは血圧測定によるマンシェット(カフ)の圧迫が強い痛みや緊張を生み、その直後に測定すると脈拍の上昇や呼吸の乱れを引き起こすからです。また、「今から呼吸を数えます」と伝えると患者が無意識に呼吸リズムを変えてしまうため、体温測定中や脈拍測定の姿勢を保ったまま、胸郭の上下動を自然に数える観察技術が基本とされています。
さらに、以下のような日常的な測定環境の見落としも数値ズレの温床です。
- 安静時間の不足:歩行直後や体位変換の直後に測定すると、血圧は10〜30mmHg程度高く出ます。最低でも5分間の安静を保つ必要があります。
- カフ(マンシェット)の巻き方と位置:カフの中心が心臓の高さより低いと血圧は高く測定され、高いと低く測定されます。また、巻き方が緩すぎると加圧が不均一になり、測定値が過大評価されます。
- 会話や室温の影響:測定中の会話は収縮期血圧を約10mmHg上昇させます。また、室温が低く末梢循環不全を起こしていると、SpO2(動脈血酸素飽和度)プローブが脈波を正しく拾えず、極端な低値エラーを表示します。