衣装を着せた途端、猫がピタッと動かなくなり、その場でうずくまる様子を見て「お利口に着こなしてくれている」と誤解する飼い主は少なくありません。しかし、動物行動学の観点から見ると、これはリラックスではなく強いパニック状態に陥った結果の「フリーズ反応(擬死・すくみ)」であるケースが大半を占めます。
猫にとって皮膚や被毛は、外界の危険や空間の広がりを感知する極めて繊細なセンサーです。服で背中や脇腹が覆われると「何かに捕らえられた」と錯覚し、本能的に身動きが取れなくなります。また、猫の顔周りにある洞毛(ヒゲ)は平衡感覚や距離感を測る重要器官であり、被り物によってヒゲの根元が圧迫されると、強い空間認識障害とストレスを引き起こします。
さらに見落とされがちなのが「グルーミング(毛づくろい)の阻害」と「体温調節機能の狂い」です。猫は自身の匂いを舐め整えることで精神の安定を保っていますが、異物を身につけている間はその自律行動が遮断されます。装飾品についている小さなボタン、リボンの先端、鈴などのパーツを噛みちぎって飲み込んでしまう「誤飲事故」は、開腹手術を要する深刻な事態に発展することもあるため、細心の注意が必要です。