本作で圧倒的な存在感を放ったのが主演の舘ひろしだ。ダンディーな刑事やハードボイルドな役柄で定評のあった彼が、カッコ悪い「定年男」の情けなさや泥臭さを体当たりで演じ切ったことは、映画界に大きな衝撃を与えた。撮影現場では、自身のスマートな立ち振る舞いを封印し、少し背中を丸めた歩き方や怯えたような目つきを追求する徹底した役作りが行われたという。
妻役を演じた黒木瞳との絶妙なコンビネーションも見逃せない。冷ややかな視線を送りつつも、長年連れ添った夫婦ならではの深い絆を垣間見せる演技は秀逸だった。現場での二人からは、長年の信頼関係があるからこそ生み出せる軽妙な掛け合いが溢れ出ており、その緊張感と親密さのバランスが作中のリアリティを大きく底上げした裏話は有名だ。