ドラマ『相棒』の根幹を成す杉下右京の人物像を読み解く上で、外せないのがその異色のキャリアです。東京大学法学部を首席で卒業後、キャリア組(国家公務員I種)として警察庁に入庁。若くして将来の警視総監候補と目され、警視庁捜査二課で数々の経済事犯を暴いた実績を持ちながら、現在の階級は「警部」のまま据え置きとなっています。
なぜエリート街道を歩んでいたはずの男が、警視庁の地下深くにある「特命係(警視庁の陸の孤島)」に追いやられたのか。その発端は、外務省官房長補佐官時代の上司であった小野田公顕(岸部一徳)と共に挑んだ、過去の「外務省高官籠城事件(15年前のエルドビア大使館籠城事件)」にあります。作戦決行を巡り、人命救助を最優先とする右京と、国家の威信と政治的決着を優先した小野田との間で決定的な対立が生じ、作戦は悲劇的な結末を迎えました。組織の論理に抗い、妥協を拒んだ右京は、警察上層部から危険分子と見なされ、昇進ルートから完全に外された「特命係」へと追放されたのです。
警視庁内において特命係は「人材の墓場」と揶揄され、右京の下についた部下はことごとく数ヶ月以内に辞職することから、かつては「警視庁の陸の孤島」「お化け屋敷」と恐れられていました。しかし、右京自身は出世や権力闘争に一切の執着を持たず、ただ「目の前にある真実の究明」と「法の下の正義」のみを追求し続けています。このブレない倫理観こそが、杉下右京というキャラクターが放つ底知れぬ魅力の原点です。