「目薬を差した後は、液を行き渡らせるために目をパチパチとまばたきする」――子どもの頃からの習慣でそう信じ込んでいる人が後を絶ちません。しかし、この動作こそが目薬が効かなくなる最大の落とし穴です。
人間のまぶたの縁には、涙を鼻の奥へ排水するための小さな穴「涙点(るいてん)」が存在します。目薬を差した直後に勢いよくまばたきを繰り返すと、ポンプ作用(涙嚢ポンプ機能)が強く働き、せっかく差した薬液の大部分が涙点から鼻腔や喉へと瞬時に吸い込まれてしまいます。点眼直後に喉の奥で特有の苦味を感じる現象は、薬液が目に留まらず喉へダダ漏れしている証拠です。これでは目の表面に薬が留まる時間が極端に短くなり、期待される治療効果が得られません。
眼科医が強く推奨する正しい点眼手順は、「1滴落としたら静かに目を閉じ、目頭を指の腹で軽く押さえる」ことです。目頭には涙点へとつながる涙嚢があります。ここを人差し指などで1〜5分ほど優しく圧迫することで物理的に排水路を遮断し、高濃度の薬液を結膜嚢内にとどめて組織へじっくり浸透させることができます。
また、目薬が1滴で適量とされる明確な医学的理由も存在します。成人の目の表面(結膜嚢)が一度に保持できる液体の限界量は約20〜30μL(マイクロリットル)です。これに対し、市販・処方を問わず一般的な目薬の1滴は約40〜50μLで作られています。つまり、たった1滴でも目の許容量をオーバーして作られているため、2滴以上差しても目の外へ流れ出るか喉へ落ちるだけで、効果は一切変わりません。むしろ溢れた薬液が周囲の皮膚に付着してかぶれを引き起こすリスクが高まるため、「渾身の1滴」を静かに馴染ませることが最善です。