ネット上のQ&AサイトやSNSでは、「古い油に新しい油を継ぎ足せば、酸化がリセットされて何回でも使える」という言説がまことしやかに語られることがあります。老舗の天ぷら店やうなぎ屋、中華料理店が「秘伝の油を継ぎ足して使っている」というイメージが、この誤解を後押ししている側面もあります。
しかし、プロの料理人が明かす厨房の実態と家庭の調理環境には、決定的な構造の隔たりが存在します。専門店が油を継ぎ足しながら運用できる理由は、「日々大量の揚げ物を作り、減った分だけ常に新しい油が大量に補給され、油全体が常にハイスピードで循環・新陳代謝しているから」に他なりません。しかも業務用の高性能フライヤーには焦げカスを自動分離する冷却ゾーンや極めて緻密なフィルターシステムが備わっています。
対して一般家庭では、数日あるいは数週間の間隔を空けて油を使用します。劣化した古い油に新鮮な油を注ぎ足しても、酸化の化学反応が中和されるわけではありません。むしろ、古い油の中に充満している過酸化脂質が触媒となり、せっかく投入した新しい油の酸化スピードを劇的に加速させてしまいます。家庭環境における「継ぎ足しによる延命」は、油の総量を無駄に増やすだけの危険な悪循環であることを理解しておく必要があります。