多くの日本人が現地を訪れた際、あるいは在日中国人コミュニティと接した際に「思っていたのと違う」と驚嘆の声を漏らします。中国と日本の文化の違いを理解する上で外せないのは、両者が辿ってきた歴史的背景と生存戦略の根本的な違いです。
日本は周囲を海に囲まれた島国で、数百年から千年にわたり同一の土地で米作りを営む定住農耕社会を基盤としてきました。水を分け合い、逃げ場のない共同体で生き抜くために最優先されたのは「和」であり、「世間」の目を気にして波風を立てないことでした。対して大陸である中国の歴史は、数十年から数百年単位で王朝が交代し、戦乱や異民族の侵入、制度の激変に晒され続けた流動社会です。国家や制度はいつ瓦解するかわからないという過酷な現実の中で、人々が唯一信頼できたのは「血縁」と強固に結ばれた「個人の人間関係」でした。
この歴史的背景の違いが生んだのが、中国人と日本人の考え方の違いの核心です。中国の社会学者・費孝通(フェイ・シャオトン)が名著『郷土中国』で提唱した「差序格局(さじょかくきょく)」という概念があります。これは、水面に落ちた小石の波紋のように、自分を中心として同心円状に人間関係の親疎が広がる構造を指します。「自己人(内輪の人間)」に対しては身銭を切ってでも家族同然に尽くしますが、波紋の外にいる「外人(見知らぬ他人)」に対しては警戒心を怠らず、義務も義理も生じません。
一方、日本人は「仲間内」と「赤の他人」の境界線を曖昧にしたまま、「世間」「公の場」という広範な空間でマナーを守り、周囲の空気を読んで行動します。日本人が中国人のストレートな物言いに「冷たい」「自己主張が激しすぎる」と感じ、中国人が日本人の配慮を「本音が分からず不気味」「よそよそしい」と感じる摩擦の根底には、この「自分と他人の境界線」の設計思想の違いが存在しています。