冷房を作動させたとき、ボンネットの下やダッシュボードの奥深くではどのような物質の変化が起きているのでしょうか。密閉された冷媒回路の中を冷媒がぐるぐると循環するプロセスは、頭の中に模式図を思い浮かべると非常に明快です。カーエアコンの冷房システムは、連動する5つの主要部品によって構成されています。
第一の心臓部がコンプレッサー(圧縮機)です。エンジンの回転力や電動モーターを使って、エバポレーターから戻ってきた低温・低圧の気体冷媒を一気に圧縮し、「高温・高圧の半気体」へと変化させて送り出します。
第二が、車の最前部、フロントグリル裏側に鎮座するコンデンサー(凝縮器)です。走行風と冷却ファンを利用して、コンプレッサーから送られてきたアツアツの冷媒を急激に冷却します。熱を奪われた高圧冷媒は、気体から「高温・高圧の液体」へと変化(凝縮)します。
第三が、液体となった冷媒を蓄えるレシーバー/ドライヤー(受液器・乾燥器)です。液化しきれなかった余分な気体を分離して液冷媒だけをプールすると同時に、配管内の微細なゴミやシステムの大敵である水分を吸着フィルターで除去します。
第四が、精密な流量制御を担うエキスパンションバルブ(膨張弁)です。高圧の液冷媒を極めて狭いノズルから一気に噴射することで、霧吹きのように急激に減圧・膨張させます。物質は圧力が急激に下がると温度が劇的に低下する特性(ジュール・トムソン効果)があるため、冷媒は一瞬で「低温・低圧の霧状」になります。もしエキスパンションバルブの詰まり症状が発生すると、冷媒が送り出されずに吹き出し口から冷風が完全に途絶えたり、低圧配管に白い霜(フロスト)が付着したりするトラブルへ直結します。
そして第五の終着点が、ダッシュボード奥の暗闇に収まるエバポレーター(蒸発器)です。エキスパンションバルブから届いた氷点下近い霧状の冷媒が、車内の空気から熱を奪って完全に蒸発(気体化)します。熱を奪われてキンキンに冷えた空気がブロアファンによって車内へと吹き出され、温まった気体冷媒は再びコンプレッサーへと吸引されていきます。
なお、車内の湿気を含んだ空気がエバポレーターの極冷フィンに接触すると、大量の結露水が発生します。この湿気と暗所という環境はカビや雑菌の温床になりやすく、エアコン始動直後の嫌な臭いの一因となります。エバポレーターの臭い掃除を怠ると、悪臭だけでなくアレルゲンの車内飛散を招くため、ドレンホースの排水確認や定期的な専門洗浄が欠かせません。