短距離走のタイムをめぐって最も根深い誤解を生んでいるのが、計測機器の違いによるタイムのズレです。多くの学校や地域イベントで採用されているのは、人間がストップウォッチのボタンを押す「手動計測」です。これに対し、陸上競技の公式大会などではレーザー光線や高速度カメラを用いた「全自動電気計測」が使われます。
スポーツバイオメカニクスおよび陸上競技連盟の公認規定に基づけば、手動計測は電気計測に比べて概ね0.24〜0.30秒ほど速い数値が出ることが証明されています。
人間の目と指先には、ピストルの煙や旗の合図を視覚で捉えてから指の筋肉が収縮するまでに「約0.15〜0.20秒の反応遅延」が存在します。加えて、ゴールラインを通過する瞬間を予測してフライング気味にボタンを押してしまう心理的バイアスが働くため、手動計測のストップウォッチは実際の所要時間よりも早く止まってしまう傾向があります。
ネット上で「自分は中学生のときに手動で5秒台を出した」といった豪快な体験談が散見されますが、これは計測員の明らかな押し間違いか、距離自体の計測ミスに起因する錯覚です。公認電気計測における50メートルの世界最高峰の通過記録が5秒半ばであることを考慮すれば、一般人の5秒台は物理的にあり得ません。自分が過去に出した記録や学校での記録を検証する際は、常に手動計測特有のプラス0.3秒の誤差を差し引いて評価する姿勢が不可欠です。