かつては「都の貴族や役人の間だけで使われ、地方ではほとんど流通しなかった」と見なされることも多かった。だが、平城京跡の発掘調査を長年主導してきた奈良文化財研究所(奈文研)による近年の科学分析は、そうした旧来のイメージを大きく覆している。
考古学・文化財学の先端機器を用いた出土木簡の墨書解読や蛍光X線分析により、銭貨が都の市(東市・西市)で米や塩、布といった必需品の売買に日常的に使われていた痕跡が次々と確認された。さらに、都から遠く離れた地方官衙や主要街道沿いの遺跡からも和同開珎が出土しており、限定的ではありながらも、国家の給与支払いと納税のネットワークを通じて地方へと浸透していったダイナミックな実態が明らかになっている。