剰余の定理とは、ある多項式を1次式で割ったときの「余り」を、実際の割り算を行わずに一瞬で特定するための定理です。教科書に掲載されている剰余の定理の公式は極めてシンプルに定義されています。
【剰余の定理の公式】
多項式 $P(x)$ を $x - \alpha$ で割ったときの余り $R$ は、$R = P(\alpha)$ である。
たとえば、$P(x) = x^3 - 3x^2 + 5x - 7$ という式を $x - 2$ で割った余りを求めたい場合、筆算で長い割り算をする必要はありません。ただ単に $x = 2$ を代入して $P(2) = 2^3 - 3(2^2) + 5(2) - 7 = 8 - 12 + 10 - 7 = -1$ と計算するだけで、正確な余りが手に入ります。これが剰余の定理のわかりやすい使い方の基本形です。
しかし、なぜこれほど都合よく余りだけが取り出せるのでしょうか。その決定的なからくりを理解するには、小学校で学んだ「割り算の検算式」に立ち戻る必要があります。
整数で「17 ÷ 5 = 3 あまり 2」を検算するとき、「17 = 5 × 3 + 2」と表したはずです。これを高校数学における多項式の割り算にそのまま置き換えます。多項式 $P(x)$ を $x - \alpha$ で割ったときの商を $Q(x)$、余りを $R$ と置くと、次の等式が成り立ちます。
$P(x) = (x - \alpha)Q(x) + R$
ここで極めて重要なのが、この式が特定の方程式ではなく、すべての $x$ において成立する「恒等式」である点です。この式が恒等式である以上、両辺にどんな数値を代入しても等号は崩れません。そこで、あえて $x = \alpha$ を代入してみます。
$P(\alpha) = (\alpha - \alpha)Q(\alpha) + R$
$P(\alpha) = 0 \cdot Q(\alpha) + R$
$P(\alpha) = R$
これが剰余の定理の証明の全貌です。商である $Q(x)$ がどれほど複雑で長大な多項式であろうとも、直前に掛けられている $(x - \alpha)$ がゼロになるため、商の情報が完全に消失して余り $R$ だけが右辺に残ります。つまり、「余りを求めるために代入している」のではなく、「邪魔な商をゼロの掛け算で強制消去した結果として、余りだけが炙り出される」というのが数学的な真相です。
割る式が $ax - b$ のように $x$ の係数に文字がある場合でも原理は変わりません。$(ax - b) = 0$ となる解、すなわち $x = \frac{b}{a}$ を代入すれば、同様に商が消滅して $R = P\left(\frac{b}{a}\right)$ として余りが求まります。